おめでとうという言葉

p42s.jpg初めて妊娠の検診を受けたとき、先生から「おめでとう」とは言われなかった。妊娠してることは自分でも予想してたけど、はっきり確かめたくて「赤ちゃんがいるんですか?」と聞いた私に、先生は「いますよ」とちょっと笑って答えてくれた。でも、当然次に発せられるかと思っていた「おめでとう」の言葉はなかった。
それまでに読んでいた妊娠・出産に関する本で、「祝ってもくれない産婦人科医だったので、私は産院を変えた」という意見もあったので、「私もそうしたほうがいいのかな……」「やっぱり喜んでくれる医者がいるところのほうがいいし……」と、次の検診までの約ひと月間、悩むようになった。

だけど、この医療難の時代、せっかく探して見つけたところだし、そんなに簡単に乗り換えて他に良いところがあるのだろうかと、思いは定まらなかった。

私が通っている産院は女性用のクリニックで、更年期障害や不妊治療なんかもやっている。待合室は診察室と壁一枚を隔てたところで、開け閉めされるドアの隙間から「おめでとう」なんて聞こえたら、そういう患者さんとしては、それはそれは辛いだろう……、だから「おめでとう」とは言わないんじゃないか、などと考えてみたりもした。

それでもなんとなく心が晴れなくて、友達に軽く愚痴ったら、望まない妊娠をして堕胎をした経験のある彼女、「そうだよ、私、最初の(検診の)ときにおめでとうなんて言われたら、もうショックでショックで目の前が真っ暗になったよ、きっと」と言う。

それを聞いて、少し、安心した。満を持した形で妊娠の確認に行ったような私と違って、最初の検診の時には、いきなり妊婦であることが明らかになった女性にとっては産む決意も定まっていないだろうし、最近は無差別に祝いの言葉を言わないようになっているのかもしれない……などと解釈するようにした。

私の妊娠については、実家の親も、ダンナの親も、友達も、そして何よりダンナ自身も喜んでくれた。だから産院で「おめでとう」って言ってもらえなくても、どうってことはないはずだった。

実は私自身も、妊娠がわかったことで、嬉しくて嬉しくて舞い上がるほど喜んだわけではない。もちろん嬉しいことは嬉しいのだけど、喜びと言うよりはむしろ、自分の中に他の生命が宿っていることを不思議だと思う、なんとも説明のできない感情のほうが強かった。だから、他の人から言ってもらう「おめでとう」に飢えていたわけではないのだけど……。

1ヵ月後。先生の診察が終わって、看護婦さんから今後についての説明を受けることになった。椅子に座ってプリントを配った看護婦さんは、第一声で「おめでとうございます」と言った。

……一瞬、自分でもポカンとしたことがわかった。そして慌てて「ありがとうございます」と言った。看護婦さんはあれこれ説明を始めたけど、私はここでは言ってもらえないと思っていた意外性のある言葉を聞いて、うれしくて、ちょっと大げさに言えば、涙まで浮かんできちゃいそうだった。

あれこれ本を読んで知識は得ていても、やっぱり産院で「おめでとう」とか「これからがんばりましょうね」と言ってもらえると、それだけで安心するのだ。

2回目の検診は、5時間近く待ったにもかかわらず、とっても後味の良い、嬉しいものとなった。

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好きな本は「赤毛のアン」「精霊の守人」「西の魔女が死んだ」などなど。新しいkindred spiritsと出会えるのを楽しみにしています。

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